介護ニュースレター

Vol.23: 問題行動の多い職員への対処について

2022年11月 Legal Care News Vol.23 PDFで見る

介護事業所からのご相談で、職場のルールを守らない、いつまでも仕事を覚えようとしない、職場の和を乱すなど、問題行動の多い職員への対策について、ご相談を受けることがあります。
問題職員に対してどのような対処ができるか、法的観点から解説します。

職員による問題行動の例

  • ・利用者に対する好き嫌いが多く、嫌いな利用者には暴言を吐く
  • ・利用者に怒鳴ったり、威圧的な態度をとる
  • ・性格・コミュニケーション能力に問題があり、他の職員と連携ができない
  • ・感情のコントロールが出来ず、すぐに不機嫌になる
  • ・注意をすると他の利用者や他の職員に八つ当たりする
  • ・上司の指導に反抗的

介護事業所に、このような問題行動を起こす職員はいないでしょうか?
介護事業所のように、職員同士のチームワークが不可欠な職場では、問題職員の行動は深刻化します。現実的にどのような対処を進めれば良いのか、一つずつ解説していきます。

NG行為

「× 安易な解雇はNG」

日本の裁判所の労働判例上、解雇は非常に厳しく規制されています。問題に対する解雇についても、解雇には合理的な理由が必要であることが法律上明記されています(労働契約法第16条)。安易な解雇は違法となりやすいので、注意が必要です。

「× 職場での無視や嫌がらせはNG」

問題職員を退職に追い込むため、無視、嫌がらせ、仕事を与えないよう孤立させるなどは決して行ってはいけません。このような行為は、厚生労働省の示す「精神的な攻撃」「人間関係からの切り離し」 「過少な要求」などのパワーハラスメントにあたり、介護事業所自体が責任を問われることになります。

注意指導

  1. 口頭
    問題行動の際に、簡潔で直ちに実行できるものは口頭での注意指導となります。言い逃れを許さないよう、すぐにその場での注意が重要です。この際、指導状況の記録のため、録音や注意をした際の職員の態度などの文書化なども重要です。
  2. メールやSNSチャットツール
    注意の日、時間、内容が記録され、それに対する相手からの返信も記録されるため、有用です。履歴の抹消や変更できるツールの場合は、スクリーンショットでの保存や履歴の保存を行いましょう。
  3. 文書
    問題行動が改善されない場合や懲戒処分を行うほどではないが問題行動が大きい場合は、書面で注意指導を行います。その際、注意指導内容に加えて、問題行動の就業規則の違反・服務規律違反を加えることをお勧めします。
    参考文「○年○月○日、大柄の男性利用者の入浴に伴う移動の際に、職員〇〇がサポートを求めて聞いていたにもかかわらず、無視をしてスマホを操作し、管理者〇〇の注意に対して、「その利用者は嫌いだから、やりたくない」などと反論をし、尚も、職務を放棄した。
    該当条項
    就業規則○条○号(職務規律違反)

配置転換

配置転換とは、雇用主側の人事権の行使として所属する施設や部門と異なる施設や部門に職員を異動させる方法です。
問題行動を起こす職員をしっかりと教育指導できる管理者のいる部署に異動させる方法は有効になることがあります。

懲戒処分

懲戒処分に該当する職員の問題行動で代表的なものとして、職務懈怠(無断欠勤、遅刻早退、業務命令違反など)、職場規律違反行為(ハラスメント行為など)が挙げられます。
懲戒処分については、①懲戒処分の種類と事由が就業規則に書かれている(戒告、減給、出勤停止、懲戒解雇などの類型が就業規則に書かれていること)、②職員の問題行為が就業規則上の懲戒事由に該当する、③問題行為について懲戒処分が重すぎない、④本人の釈明の機会がある(適正プロセス)といった要素を満たさないと、法的には違法となるので注意が必要です。
管理職の思い付きで安易に問題職員に対して減給など厳しい懲戒処分を下すと、法的には違法・無効となりやすいため、注意が必要です。

退職勧奨

雇用主が職員に退職をするよう勧めることです。あくまで任意に職員の退職を勧める手続ですので、強制力や法的な効果を有するものではありません。

問題行動が多い職員が管理職の頭を悩ませますが、事業所としては厳正な対処が不可欠です。各対処の実際の進め方については、弁護士までご相談ください。

弁護士法人リーガルプラス代表弁護士 東京弁護士会所属
介護法務研究会(C-LA)代表
谷 靖介(たに やすゆき)
石川に生まれ、東京で幼少期を過ごす。1999年明治大学法学部卒業、2004年弁護士登録。日本弁護士連合会の公設事務所プロジェクトに参加し、2005年、実働弁護士ゼロ地域の茨城県鹿嶋市に赴任。翌年には年間500名以上の法律相談を担当し、弁護士不足地域での法務サービスに尽力する。弁護士法人リーガルプラスを設立し、複数の法律事務所を開設し、介護医療事業への法務支援に注力。経営者協会労務法制委員会講師を務めるなど、講演経験やメディア出演も多数。

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