介護ニュースレター

Vol.25: 身寄りのないご利用者の遺産相続問題

2023年5月 Legal Care News Vol.25 PDFで見る

弁護士として、介護事業所の方から、身寄りのないご利用者の相続問題について法律相談をお受けすることがありますので解説します。

身寄りのないご利用者の遺産はどうなるか

ご利用者が亡くなった場合に、その遺産は法定相続人である配偶者や子供、兄弟姉妹(甥や姪)が相続することが多いといえます。
民法では、亡くなったご利用者が遺言を作成していない場合の相続人は、次のように定められています。
必ず相続人になる:配偶者第1順位:子
・養子も含む
・子が亡くなっている場合はその子(孫)
第2順位:父母
・父母が先に亡くなっている場合は祖父や祖母
第3順位:兄弟姉妹
・兄弟姉妹が先に亡くなっている場合はその子(甥・姪)


もっとも、ご利用者が独身や配偶者が既に亡くなっており、子もおらず、親も先に亡くなり兄弟姉妹(甥や姪)もいないケースも存在します。亡くなったご利用者に配偶者や第1順位から第3順位の人がいない場合には、法定相続人が不在となります。

相続人がいないご利用者の遺産は・・

では、相続人がいないご利用者の遺産は、誰も取得できないのでしょうか。
このように法定相続人の不在が明らかなときや存在が明らかでないとき(相続人全員が相続放棄をした場合も含まれる)には、家庭裁判所は、申立てにより、相続財産清算人を選任します。

相続財産清算人は、亡くなったご利用者の債権者等に対して被相続人の債務を支払うなどして財産の清算を行い、清算後に残った財産を国庫に帰属させることになります。
清算人の申立人は、亡くなったご利用者の利害関係人(債権者、特定遺贈を受けた者、特別縁故者など)や検察官がなることができます。
相続財産清算人から債権者や受遺者(遺産を譲ることが遺言で指定された人)、特別縁故者に遺産が与えられ、それでも余った遺産は、最終的に国に納められます。

このように、亡くなったご利用者の身の回りの世話をしていたなど「特別縁故者」が遺産の一部を取得することが認められています。
特別縁故者が遺産を取得するためには、家庭裁判所に対して、相続人がいないことが確定してから3か月以内に「相続財産分与の申し立て」を行う必要があります。

次のいずれかの要件を満たしている場合は家庭裁判所が特別縁故者にあたると判断できます。

  1. 亡くなったご利用者と同一の生計にあった人
  2. 亡くなったご利用者の療養看護に努めた人
  3. 前2項目に準じて特別の縁故があった人

もっとも、単にご利用者の施設での身の回りの世話や手続きを手伝っていたというだけで特別縁故者として認めてもらうことは難しいでしょう。

身寄りのないご利用者こそ遺言書の作成を

身寄りのないご利用者の遺産相続をスムーズに進めるためには、生前の判断能力がある時点で、ご利用者に遺言書を作成してもらうことが重要です。

相続財産清算人による手続きでは、ご利用者の友人や身の回りの世話をした法定相続人ではない親戚が特別縁故者として認められず、遺産を取得できない場合もあります。

もっとも、遺言書でご利用者の友人や身の回りの世話をした法定相続人ではない親戚へ遺贈することを定めておくと、その心配もありません。

遺言書ですべての財産を特定の人物や団体などに遺贈することを決めておけば、相続財産清算人による手続きは不要になります。この場合、遺言通りに財産を移転するため、遺言執行者の選任をしておくと、より財産移転がスムーズとなります。

遺言書には自筆証書遺言と公正証書遺言の両方がありますが、自筆証書遺言は形式違反などで無効になるリスクを考えると、公正証書遺言の方が法的な安全性は高まります。

遺言書の作成や文言は専門性が高い領域のため、弁護士などの専門家にご相談されることをお勧めします。

弁護士法人リーガルプラス代表弁護士 東京弁護士会所属
介護法務研究会(C-LA)代表
谷 靖介(たに やすゆき)
石川に生まれ、東京で幼少期を過ごす。1999年明治大学法学部卒業、2004年弁護士登録。日本弁護士連合会の公設事務所プロジェクトに参加し、2005年、実働弁護士ゼロ地域の茨城県鹿嶋市に赴任。翌年には年間500名以上の法律相談を担当し、弁護士不足地域での法務サービスに尽力する。弁護士法人リーガルプラスを設立し、複数の法律事務所を開設し、介護医療事業への法務支援に注力。経営者協会労務法制委員会講師を務めるなど、講演経験やメディア出演も多数。

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