介護ニュースレター

Vol.28: 介護現場における労災問題②

2024年2月 Legal Care News Vol.28 PDFで見る

今回のニュースレターでは、前回に続けて、介護事業所における職員の労災問題に関する基本知識を取り上げました。
重大な労災事故が発生した場合、職員の就労意欲の低下、離職者の発生、利用者離れによる収益減少など、経営そのものが危ぶまれます。
労災に伴う諸問題を決して軽視せず、民事・刑事・行政責任の解説と労災の起きた場合の対処方法の概要をまとめました。


1、介護事業所が労災防止に向けて取り組むべきこと

職員の労災防止のため、以下のような取り組みを進めて、職場環境の改善を進めることが重要です。

  1. 転倒事故の防止
    • ・作業環境の整理整頓や清掃
    • ・危険箇所の表示や滑り防止、滑りにくい靴の用意
    • ・重量物の制限
  2. 腰痛防止
    • ・始業前の準備体操、ストレッチ
    • ・腰痛になりにくい介護技術の向上
    • ・整骨院の通院補助
  3. メンタルケア
    • ・心身不調者への定期面談や通院のための勤務シフトの調整
    • ・ハラスメントを行う利用者、利用者家族への対処
  4. 啓発・研修
    • ・安全講習などで職員がケガをしやすい介護現場の知識や対策方法の取得

2、労災発生に伴う法的責任

介護事業において職員の労災が発生した際には、使用者である介護事業者には、下記の法的責任が発生し得ます。

①民事上の損害賠償責任

被害に遭った職員や遺族から労働災害で被った損害について、不法行為や雇用契約に伴う安全配慮義務違反を理由とした損害賠償を請求されることがあります。
労災保険給付(いわゆる政府労災)の支給がなされた場合、事業者は労災保険給付の価額の限度で損害賠償の責任を免れますが、労災保険給付では精神的苦痛に対する慰謝料や後遺障害の逸失利益など、被害者の被った損害の全てがカバーされるわけではありません。
事業者が民事上の損害賠償の責任を負う根拠は「労働契約の付随義務として、労働者を災害から守らなければならないという安全配慮義務に基づく債務不履行責任」であり、損害賠償を認める裁判例が多く見られます。
この場合、職員の不注意や落ち度(過失相殺)などが議論となることが多いといえます。

②刑事責任

労働安全衛生法では、事業者に対して労働災害防止の事前予防のための安全衛生管理措置及び罰則が定められており、これを怠ると刑事責任が課せられます。
また職員の生命、身体、健康に対する危険防止の注意業務を怠って、職員を死傷させた場合、業務上過失致死傷罪(刑法第211条 業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。
重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。)に問われることがあります。

③行政責任

介護保険法では、介護労働者の法定労働条件の履行確保を図るため、労働基準関係法令の遵守の徹底を図ることが求められています。
発生した労災事故が労働安全衛生法違反や労災発生の急迫した危険がある場合には、事業停止等の行政処分を受けることがあります。また、重大な労災事故が起きた場合は、以降、行政での実地指導や監査対象にもなります。

3、もし労災事故が起きてしまったら下記のような対処が必要となります。

  • ・休業4日以上の場合は、労働者死傷病報告を遅滞なく労働基準監督署への報告
  • ・労災保険の申請対応
  • ・被害者の入院や治療への対応
  • ・休職や復職、職場の人員シフトや業務体制の調整
  • ・原因分析と再発防止施策の構築
  • ・事業者側に安全配慮義務違反がある場合は、政府労災に加えて民事賠償の検討

一つ一つの対処をしっかり行うことが重要です。

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