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2022.2月号:労働法に関する近時の重要判例解説

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労働法に関する近時の重要判例解説

2021年10月の千葉経協労働法フォーラムにおいて「労働法 に関する近時の厳選重要判例の検討」の解説を致しました。 本Q&Aではその内容の重要ポイントをお伝えします。

残業代・割増賃金に関する近時の重要判例には、どのようなものがありますか?

国際自動車事件第2次上告審(最高裁令和2年3月30日判決)があります。タクシー運転手の歩合給の計算にあたって控除される割増金の支払いについて、割増賃金の支払いがあったとは認められない、とされた判例です。
割増金に関し、同社では、割増金の額がそのまま歩合給の減額につながるという仕組みを採用していました。
最高裁は、このような仕組みは揚高を得るに当たり生ずる割増賃金を経費とし、その全額をタクシー乗務員に負担させているに等しいと判断し、割増金の額がそのまま歩合給の減額につながるという仕組み自体が、労基法37条の趣旨(時間外労働等の抑制及び労働者への補償を図る)に反すると判断しました。

国際自動車事件第2次上告審をふまえると、運送会社等では、時間外の割増賃金制度についてどのように制度設計をすれば良いのでしょうか?

複雑な割増賃金制度の作成をした場合、判別可能性という観点から裁判所の納得を得ることは困難になっていくと考えられます。
歩合の構成などについて複雑な制度を基に賃金を抑制しても、従業員が「残業代の支払いを受けていない」として、訴訟などの法的紛争が起きるリスクが残ります。
訴訟になってしまった場合、企業が複雑な賃金制度や手当の設計について裁判官に熱心に説明しても、「実質的に見れば労基法37条の趣旨と適合しない」「時間外の割増賃金の支払いがされていない」と認定されて敗訴すれば、基礎賃金の上昇や追加の多額の割増賃金の支払いなどの大きな損失が企業には発生します。
社員への手当等を割増賃金・残業代の支払いと構成する場合、時間外労働時間との連動範囲が明確になる定額制(みなし残業)や、時間外労働の対価としての性格を有していることを賃金規程等に明記した役職手当の導入などの工夫は不可欠です。

同一労働同一賃金について、重要な判例はありますか?

大阪医科薬科大学事件判決(最高裁令和2年10月13日判決)があります。
無期雇用の正職員と有期雇用であるアルバイト職員との待遇差(特に、「賞与」の支給有無)について、不合理な待遇差として労働契約法20条に違反するかどうかが争点となった訴訟です。
最高裁は、①賞与の性質、②職員の職務内容や責任、③配置転換の範囲、④登用制度等その他の事情について詳細な検討を行った上で、結論として、同大学で有期雇用のアルバイト職員に対して賞与を支給しないことについては不合理な待遇差にはあたらず、労働契約法20条には違反しない、という判断を示しました。
もっとも、賞与の性質、無期雇用の社員と有期雇用のアルバイトの職務内容や責任の差、配置転換の範囲などは、企業によって異なるものです。
本判決は、どのような企業でも有期雇用のアルバイト労働者に対する賞与の一律不支給を合法と判断したものではないことに注意が必要です。

【東京法律事務所】
代表弁護士:谷 靖介(たに やすゆき)
プロフィール
東京弁護士会所属。明治大学法学部卒業後、2002年(旧)司法試験合格。2004年弁護士登録(司法修習57期)。リーガルプラスの代表として複数の法律事務所を経営しつつ、弁護士としては主に中小企業の法務労働問題、相続紛争業務を担当する。千葉県経営者協会労働法フォーラム、弁護士ドットコム(法律事務所運営)などの講師を務める。また、日本経済新聞、NHK、テレビ朝日等のメディア取材や日経ヘルスケア、医療介護専門誌への寄稿も多数。趣味は読書、旅行。

交通事故解決事例「歩行者と自転車の交通事故で後遺障害12級で示談した事例」

1 はじめに

近年、環境保全や新型コロナウイルス対策の観点から自転車の利用が増加している中、自転車が加害者側となる交通事故が起きています。死亡事故や重い後遺障害が残る事故も起きているにもかかわらず、自転車保険が普及しておらず、自転車事故の被害者救済が社会問題となっています。
そこで今回は、私が担当した自転車と歩行者の事故について解説したいと思います。

2 事案の概要

依頼者は70代女性であり、息子さんが代理相談でいらっしゃいました。
事故の概要は、依頼者が横断歩道を青信号で渡っていたところ、後ろを相手方運転の自転車が通過しようとして、依頼者の背負っていたリュックサックと相手方自転車のハンドルが接触し、依頼者が転倒して左手首骨折などのけがを負ったというものです。相談当時まだ治療中でしたが、相手方とどう交渉するか、損害賠償を支払ってもらえるかについてご不安であるとのことでした。
本件は自転車事故であり相手方が使用できる保険に入っていない可能性があること、相手方の資力が不明であるため損害賠償額を回収できない可能性があるリスクを説明の上、示談交渉で受任しました。

3 受任から症状固定まで

受任後、早速相手方本人に介入通知を送付しました。そうしたところ、今回の事故は相手方(建築系の自営業者)が仕事先に行く途中での事故であるということで相手方加入の建設業総合保険が使用できるということが判明し、保険会社を通じて相手方にも代理人弁護士が就任しました。
その後は相手方代理人に対し随時治療状況の報告を行い、事故から9カ月(入院1カ月、通院8カ月)で治療を終了し症状固定となりました。

4 症状固定後の後遺障害認定

自転車事故の場合、自動車事故であるような事前認定や被害者請求での後遺障害認定手続がなく、後遺障害の存在・程度を被害者自身が主張立証しなくてはなりません。
そこで主治医に後遺障害診断書を作成してもらい検討したところ、左手首の可動域が右手首の4分の3以下に制限されており、自賠責後遺障害等級12級6号「1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの」に相当すると判断しましたので、その旨の意見書と損害額案を作成し、相手方代理人宛提示しました。

5 交渉と示談

その後相手方代理人との交渉の結果、裁判外での交渉であることや早期解決の観点などから、入通院慰謝料・後遺障害慰謝料を訴訟基準の9割とすること、その他の損害費目については当方の主張通りとして、相手方が依頼者に対し既払額を除き400万円を支払う内容で示談が成立しました。

6 おわりに(自転車保険の重要性)

自転車事故の場合、依頼者側と相手方側を問わず、自転車保険その他自転車事故で使用できる保険ないし特約がないかを確認することが必要不可欠となります。自転車保険に加入することで、事故対応の安心感が格段に高まります。事業で自転車を使用する際は,自転車保険はもはや必須といえるでしょう。
今回の案件は、自転車保険の重要性を痛感する一件となりました。

【東京法律事務所】
所属弁護士:若松 俊樹(わかまつ としき)
プロフィール
東京大学法学部卒業、慶應義塾大学大学院法務研究科修了後、弁護士登録以降東京で3年半、茨城県水戸市で6年半強ほど一般民事や企業法務などの分野で執務。現在は東京事務所で活動。趣味は読書や音楽鑑賞、好きな言葉は「鬼手仏心」、「神は細部に宿る」。

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