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2022年11月号: 法定審理期間訴訟手続について

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法定審理期間訴訟手続について

1 はじめに

今年成立した改正民事訴訟法では民事訴訟のIT化に関する改正が目を引くところですが、それだけではなく「法定審理期間訴訟手続」という新たな制度も創設されました。今回はこの手続について解説します。

2 制度の趣旨

現在の民事訴訟は基本的に審理期間に制限がなく、訴え提起から第一審判決まで1~2年を要することも珍しくありません。審理の迅速化を求める声は以前からあがっていたところ、これを実現するための手続として法定審理期間訴訟手続が創設されました。
施行日は、公布日(2022年5月25日)から起算して4年を超えない期間内で政令にて定める日となっています。

3 制度の概要

法定審理期間訴訟手続の対象事件は、消費者契約および個別労働関係民事紛争に関する事件を除いた事件となります。
手続を利用する場合は、原則として当事者双方が書面で申出をすることとされており(裁判期日では口頭での申出も可能)、申出を受けた裁判所は例外事由にあたらない限り、手続を利用する決定を出さなくてはなりません。当事者の一方が申出をして相手方が同意した場合も同様です。
この決定が出されると、①決定日から2週間以内に②裁判期日の指定がされ、②の期日から6か月以内に③裁判手続を終結させる期日が定められ、③の終結日から1か月以内に④判決言渡期日が指定されます。そして、当事者が主張や証拠を提出できるのは②の期日から5か月以内に制限され、期日の変更はやむを得ない事由を除いて許されません。
手続中に当事者の一方又は双方が通常の訴訟手続に戻すよう申出をした場合、または裁判所で手続を利用することが困難と認めたときは、通常の訴訟手続に戻されます。
判決に対して控訴はできませんが異議申立てはでき、異議申立てがあった場合は通常の訴訟手続に戻って審理が進められます。

4 今後の展望

このように、法定審理期間訴訟手続はざっくり言えば裁判の期間を6カ月に制限する制度ということになります。法制審議会の部会資料によれば、例えば当事者間において事実関係に争いがないが契約条項の解釈や法適用について争いがある事案、当事者間において訴訟前の交渉がされていることによって事実関係の争いが絞られているような事案での適用が念頭に置かれているようです。
これに対しては、拙速な審理につながりかねないとして複数の弁護士会から反対や慎重な検討を求める会長声明が出されています。
個人的には、必要な資料がすべてそろい、訴訟前の交渉で争点が詰められ、和解含みで訴訟手続を行う場合には利用する意味はあると思いますが、それですと通常の訴訟手続を利用した場合でもそれほど変わらないのではとも感じます。法定審理期間訴訟手続が必要十分な審理を保ちつつ実効性のある制度として活用されるかどうかについて、今後の動向を注目していきたいところです。

【東京法律事務所】
所属弁護士:若松 俊樹(わかまつ としき)

プロフィール
東京大学法学部卒業、慶應義塾大学大学院法務研究科修了後、弁護士登録以降東京で3年半、茨城県水戸市で6年半強ほど一般民事や企業法務などの分野で執務。現在は東京事務所で活動。趣味は読書や音楽鑑賞、好きな言葉は「鬼手仏心」、「神は細部に宿る」。

遺産に使途不明金と借地権付き建物が含まれていた相続事例

ご依頼者 Xさん
相手方  Yさん
被相続人 Aさん
解決方法 交渉
解決までに要した期間 3年

●本件の事実関係

生前、Aさんは1人で暮らしていましたが、XさんとYさんは近くに暮らしていました。Aさんはそれほど高齢ではありませんでしたが、XさんとYさんがAさんの生活のお手伝いをしていました。Aさんの亡くなる1年ほど前までは、主にXさんがAさんのお世話をしていましたが、それ以降は、YさんがAさんの預金等を管理するようになりました。

●ご相談のきっかけ

Xさんは、YさんがAさんの預金口座を管理し始めてから、その預金口座からの支出が増えていたため、その使途に不信を抱き、ご相談に来られました。

●解決までの流れ

Aさんの主な遺産は、預金と自宅建物でした。なお、自宅建物には住宅ローンが残されていましたが、団体信用生命保険により住宅ローンは消滅しました。
Yさんは、預金の管理に際し、領収書を保管していましたので、そちらを照らし合わせることで入出金の確認ができましたが、領収書のない支出が100万円以上もありました。こちらについては、Xさんの相続分に相当する金額を返還する形で解決となりました。
XさんもYさんもAさんとは別に暮らしていたため、自宅建物は不要であり、売却する必要がありました。しかし、自宅建物はAさん自身によって増築されており、容積率等の建築基準法の条件を満たしていない可能性がありました。また、老朽化が激しく、雨漏りらしき跡も確認できました。このため、このような建物であっても購入してくれる方を探す必要がありました。買主は、私の知り合いの不動産業者にお願いし、紹介していただいた不動産業者の方に現状有姿で購入していただけることとなりました。
自宅建物の土地は第三者の所有であったため、借地権の売買につき、土地所有者の承諾を得る必要がありました。しかし、土地所有者には、その人なりに色々とこだわりがあり、承諾に応じませんでした。本件は、裁判所によって借地権譲渡承諾に代わる許可を得られるであろう事案でしたが、従前からの関係性等に鑑み、Xさんは訴訟の提起には消極的でした。このため、土地所有者と1年ほどの交渉を行いました。最終的には、買主に対して詳細な条件を付することで承諾を得ることができ、無事売却することができました。
この結果、時間はかかったものの、Xさんの希望どおり、全ての遺産を現金で受け取ることができました。

【千葉法律事務所】
所属弁護士:今井 浩統(いまい ひろのり)

プロフィール
東北大学法学部卒業、早稲田大学法務研究科修了後、弁護士登録(千葉県弁護士会)。主に、交通事故、労災事故、債務整理、過払い金回収、相続、離婚、中小企業法務(労務問題)を中心に活動を行う。趣味はソフトテニス、ゴルフ、アコースティックギター、ドライブ。

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