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2023年7月号: 労働災害対応の実務と法的留意点について

L+PRESS 2023年7月 PDFで見る

労働災害対応の実務と法的留意点について

2023年6月の労務法制委員会において「労働災害対応の実務と法的留意点」と題し、労災発生時の実務対応について解説致しました。
本Q&Aではその内容の重要ポイントをお伝えします。

労災とは何ですか?

A 一般的には、 ①業務に起因する傷害や疾病、いわゆる「業務災害」を意味することが多いですが、②強制加入の政府の保険である「労働者災害補償保険制度」(労災保険制度)を意味して「労災」と言ったり、この労災保険制度が使える事故として、③業務災害に加えて「通勤災害」を含む概念であったりします。
また、④業務災害の中でも使用者が損害賠償義務を負う事故を指す概念である場合もあります。
従って、「労災」という言葉が出た際には、どの意味で「労災」といっているのかをよく確認する必要があります。

労災事故が発生した場合、労災保険とは別に使用者が損害賠償しなければならないことがあるのですか。

A 労災事故が発生した場合、その事故発生の原因や、損害拡大に会社の過失(落ち度)がある場合には、使用者はその従業員に対して安全配慮義務(労働契約法5条)違反等によって損害賠償の義務を負うことがあります。
また、直接の雇用契約関係にない労働者が傷病を負った場合(派遣従業員など)でも、判例上「特別の社会的接触関係」が認められる場合には安全配慮義務が生ずるとされていることから、安全配慮義務違反が問題になる場合があります。
賠償額は、事故の結果によっては数千万〜数億円規模になる場合もありますので、十分な注意と対策が必要です。

会社に少しでも過失がある労災事故の場合は、従業員の受けた損害は、必ず全額賠償しなければならないのでしょうか?

A 労災事故の原因には、従業員側にも過失(落ち度)がある場合も少なくありません。その場合、「過失相殺」という法理によって、賠償額を大きく減らすことが可能な場合があります。弁護士などのプロを入れて、事故を適切に調査することが重要となります。
また、民間の保険会社が提供する労災上乗せ保険に加入することで、保険による自衛を行うことで、リスクコントロールすることも、対策として有効です。

実際に労災事故が発生した場合の初動対応として重要なのは何ですか。

A 何よりも重要なのは客観的な状況の情報収集です。軽傷であっても病院に行かせることは、事故直後の傷病の状況を客観的に確定する重要なプロセスとなります。
また、労災事故により治療や休業等を余儀なくされた従業員の心情にはできる限り寄り添うことが重要です。「お見舞いにも来てくれなかった」という心情的わだかまりが、弁護士に委任して本格的な賠償請求を行う引き金になることがあります。
従業員から賠償請求などを受けた場合には、労災に強い弁護士に迅速に相談・委任して、対応を行うことが重要です。

【市川法律事務所】
所属弁護士:小林 貴行(こばやし たかゆき)

プロフィール
早稲田大学政治経済学部卒業、早稲田大学大学院法務研究科修了後、弁護士登録(千葉県弁護士会)。主に、交通事故、労災事故、債務整理、相続、中小企業法務(労務問題)を中心に、「最後の解決の時まで、事件の状況の変化に従ってあるべき道すじを考え続け、お示しする」という気持ちを大切にして活動を行う。

交通事故解決事例

事案
Aさん(50代・主婦)は、歩道を歩いていたところ、正面から急スピードで走行してきた自転車と衝突しました。Aさんは、本件事故により、右肘骨折、頸椎捻挫などの傷害を負いました。
Aさんは、本件事故から約2週間後に、保険会社への対応や今後の流れなどについて不安を感じ、相談にいらっしゃいました。
また、弁護士費用特約(以下、「弁特」といいます。)が利用できることもあり、相談当日にご依頼をいただきました。

1 ご契約から治療終了まで

Aさんとの契約後、すぐに保険会社に対し受任通知を発送し、連絡窓口を弁護士へと移しました。その結果、Aさんは、保険会社とのやり取りを弁護士に任せることができ、治療に専念することができました。
交通事故に遭われ、当事務所に相談にいらっしゃる方の多くは、「保険会社とのやり取りが苦痛…」、「どのように対応したらよいのか分からない…」とおっしゃられます。弁護士にご依頼をされた場合、そのようなやり取りを弁護士に任せることができ、精神的な負担が軽減され、治療に専念することができます。

2 後遺障害の認定

Aさんは、本件事故から約1年間、治療を継続しましたが、右肘や頸部から肩にかけて痛みが残ってしまい、後遺障害等級併合第14級に認定されました。
弁護士にご依頼をされた場合、資料収集や申請手続の代行など、後遺障害等級の獲得に向けたサポートを受けることができます。
なお、Aさんの場合、自転車事故であったことから、被害者請求ではなく、任意保険会社に協力をしてもらう形での後遺障害の申請となりましたが、様々なサポートをさせていただき、後遺障害等級の獲得へとつながりました。

3 示談交渉

Aさんの場合、弁護士が保険会社と示談交渉をしたところ、休業損害が約140万円、入通院慰謝料が約160万円、後遺障害による逸失利益が約90万円、後遺障害慰謝料が110万円とかなりの高水準で交渉を成立させることができました。
保険会社より提示される示談額は、保険会社の内部基準で算定されるため、低い金額になるケースが多いです。一方で、弁護士は、裁判基準をもとにして示談交渉を行うので、大幅な示談金の増額が見込めることもあります。
Aさんの場合、弁護士が示談交渉をしたことで、適切な示談金を獲得することができました。保険会社からの示談金の提示が適切なものか分からずにお困りの方は、一度弁護士にご相談されることをお勧めします。

4 おわりに

Aさんの場合、自動車保険の弁特が自転車事故にも適用されるものであったことから、弁特を利用し、早期に弁護士に依頼をすることができました。契約内容によっては、自動車事故のみが適用対象となっており、自転車事故では弁特を利用できない場合もあります。
近年、自転車事故による被害が増加していることから、自転車事故も弁特の適用対象かどうかについて一度ご確認いただき、契約内容の変更なども含めご検討いただければと思います。

【市川法律事務所】
所属弁護士:西池 峻矢(にしいけ しゅんや)

プロフィール
早稲田大学法学部卒業、早稲田大学大学院法務研究科修了。弁護士登録(千葉県弁護士会)以降、「自身が勉強した法律を使って、法的な紛争で苦しんでいる人々を助けてあげたい」という気持ちを胸に、交通事故や一般民事、家事事件などの分野で活動を行う。趣味は野球やラグビーなどのスポーツ観戦、好きな言葉は「意志あるところに道は開ける」。

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