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2023年10月号: 当事者に対する住所、氏名等の秘匿の制度について

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当事者に対する住所、氏名等の秘匿の制度について

1.はじめに

今回は、令和4年の民事訴訟法改正で新設された「当事者に対する住所、氏名等の秘匿の制度」についてご紹介します。
本制度は、令和5年2月20日に施行されたもので、DV被害のある離婚事件や犯罪被害についての損害賠償請求事件の際に、重要な制度になります。

2.制度の趣旨

これまでは、裁判を起こしたり、家事調停や強制執行を申し立てる際、当事者は、自分の住所や氏名を明記しなければなりませんでした。
そのため、性犯罪やストーカーの被害者が損害の回復を望んでも、自分の個人情報が加害者に伝わってしまうことを恐れて、損害賠償請求をためらうことに繋がっていました。
また、DV被害のある離婚事件では、「非開示の希望に関する申出書」という書類を提出して、現住所などが配偶者に開示されないようにしていました。もっとも、非開示を希望していても、裁判官の判断により開示がなされ、配偶者に住所情報が閲覧されてしまうリスクがありました。
このような被害者側の懸念を払拭し、裁判所での手続を行いやすくするため、本制度が作られました。

3.制度の概要

本制度では、「申立て等をする者又はその法定代理人」の「住所等」と「氏名等」が秘匿の対象となります。
秘匿を認める決定を得るためには、その人が「社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあること」が必要です。
例えば、DV被害を逃れて別居した方が、離婚調停を申し立てる場合、現住所が知られると、配偶者に自宅付近で待ち伏せされ、さらに暴力を受ける危険がある、といったケースがこれに当てはまります。
また、被害者が、見ず知らずの加害者から性被害を受けたような事件では、二次被害を防ぐため、氏名・住所の両方の秘匿が認められることが多いでしょう。

4.制度の利用に当たって

本制度が新たに作られたことにより、相手方当事者に、自分の情報が伝わってしまうリスクを減らすことができるようになりました。
特に、これまでは、氏名を隠して裁判手続きをする手段がなかったため、犯罪被害等についての損害賠償請求のハードルが下がることが期待されます。
もっとも、暴力や犯罪被害の証拠がない場合などには、秘匿決定が出ないこともあり得えます。そうした場合、引き続き実家や同居時の住所を記載して、現住所を隠すといった、現場での工夫は必要になります。
また、住所や氏名の特定に繋がってしまう事項(推知事項)が、うっかり証拠から露見しないようにすべき責務は、引き続き当事者が負うことには注意が必要です。
不用意に情報が出てしまうことに注意しつつ、本制度をうまく利用することで、これまで被害を恐れて泣き寝入りを余儀なくされていた事件についても、裁判所の手続きに乗せやすくなることが期待されます。

【津田沼法律事務所】
所属弁護士:三浦 知草(みうら ちぐさ)

プロフィール
中央大学法学部法律学科卒業後、弁護士登録(千葉県弁護士会)。主に、交通事故、離婚・不貞問題、刑事事件などを中心に、ご依頼者様に寄り添いながら、お気持ちや意見をしっかり代弁した上で納得のいく解決に導けるよう丁寧な活動を行う。趣味は読書、野球・ボクシング・相撲のTV観戦、好きな言葉は「命あっての物種」。

交通事故解決事例

1 事案の概要

Aさんが信号機等によって交通整理の行われていない交差点を直進していたところ、左から一時停止を無視して交差点内に直進してきた別の車両がAさんの車両の左前ドアに衝突しました。
Aさんは、この事故によって受傷し、事故当日に行った病院において胸骨骨折と診断されました。しかしながら、Aさんは、当時痛みがありながらも、仕事が忙しいことを理由に、事故翌日の通院を最後に、治療を終えられました。

2 傷害慰謝料の算定への影響

通院日数や通院期間が極端に短い場合、交通事故によって賠償される金銭のうち、傷害慰謝料の算定に影響が生じることになります。
現在、傷害慰謝料は、基本的には受傷内容(傷害の態様及び軽重)と精神的苦痛を受けた期間(治療期間)の長短によって算定されており、このように期間の状況に応じて金額算定をすることから「入通院慰謝料」とも呼ばれます。
傷害慰謝料の算定には、①自賠責保険基準、②任意保険基準、③裁判基準の3つの基準があり、このうち③の基準は、現行の裁判実務で基準とされているものであり、①及び②の基準が通院実日数を算定の基礎としているのに対して、③の基準は通院期間を算定の基礎としています。そのため、3つの基準の中で最も高額になりやすく、弁護士に依頼した場合にはこの基準に従って傷害慰謝料を算定するのが一般的です。

3 解決までの経緯

本件では、Aさんの通院期間は事故後2日間のみと極端に短く、裁判基準で算定したとしても、傷害慰謝料が1万円ほどにとどまる可能性がありました。
しかし、Aさんは胸骨骨折という診断を受け、画像記録等の客観的資料があり、症状の性質からも事故発生から数日で痛みが生じなくなったとは考えにくいことやAさんが高齢であり、一般的にみても怪我が治りにくい状態であったことを踏まえると、実際の通院期間のみを基準に傷害慰謝料を算定することは妥当でないと考えられました。そうして傷害慰謝料の増額を交渉した結果、1ヶ月弱の通院期間に相当する傷害慰謝料で示談することとなりました。

4 おわりに

交通事故の被害によって受傷した場合にまずすべきことは、早急に整形外科に通院することです。その後は、主治医とよく話し合い、できる限り通院を続けることを強くおすすめいたします。
もっとも、本件のように、痛みがあるにもかかわらず、仕事の都合等により通院の回数や期間が極端に少ないまま、治療を終えてしまう場合があります。このような場合でも、骨折などの相当程度の通院期間が必要になるような怪我で、画像記録等の客観的資料があれば、症状や年齢等に照らして、実際の通院期間よりも長い期間を前提として傷害慰謝料が支払われる可能性があります。

【かしま法律事務所】
所属弁護士:佐々木 英人(ささき ひでと)

プロフィール
山形大学人文学部卒業、中央大学法科大学院法務研究科修了後、弁護士登録(茨城県弁護士会)。現在はかしま法律事務所に所属し、主に、交通事故、労働事件、相続、離婚・不貞問題、中小企業法務(労務問題)を中心に活動を行う。ご依頼者様にしっかり寄り添い、少しでも早く不安や不満が解消されるよう迅速な活動を心がけている。好きな言葉は「雨垂れ石を穿つ」。

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