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2024年2月号: 労働時間管理

L+PRESS 2024年2月 PDFで見る

労働時間管理

中小企業であっても月60時間以上の時間外労働に対し、50パーセントの割増賃金を払わなければならなくなってから、もうすぐ1年が経過しようとしています。
この間、労働時間に関係する裁判例もいくつか出てきていますので、取り上げます。

当社では、制服の着用を義務づけています。家から制服を着て通勤しても構わない運用です。
ただし、電車通勤の従業員の多くは、勤務先が周囲に明らかとなる制服を着用しての通勤には抵抗があるらしく、ロッカー室内で着替えています。
当社では、制服に着替えてからタイムカードを打刻し、業務に入るよう指示をしていますが、従業員の一部から、着替えも労働時間にあたるから着替え前にタイムカードを打刻し、その間の給料を支払うべきだという意見が出ています。この意見に従って支払いをすべきでしょうか。

A 結論としては、払わなくとも良いと考えます。
自宅での着替えも認められ、制服での通勤が不可能といった事情もない以上、着替え時間は使用者の指揮命令下にないと考えられるからです。
参考裁判例としては、看護師の制服への着替えを労働時間と認めた大阪地裁令和2年5月29日判決(淀川勤労者厚生協会事件)、郵便局の制服への着替えを労働時間と認めた神戸地裁令和5年12月22日判決があります。

当社には直行直帰の外回りの営業職がいますが、報告は週に1度だけ週報を出せば良く、出退勤の時間は、スマートフォンで勤怠管理システムにアクセスして入力させています。残業が生じそうなときは事前申請により、上司の指示を貰うことになっています。
事業場外みなし労働時間制を採用しようと思っていますが、採用できるでしょうか。

A 難しいと考えます。
事業場外みなし労働時間制は、労働者が事業場外で業務に従事し、労働時間算定が困難な場合に採用することができる制度です。
労働時間算定が困難な場合といえるかについて、「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」では、①情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと、②随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないことという要件を満たせば、労働時間算定が困難な場合にあたると示しています。
しかし、東京高裁令和4年11月16日判決は、同様の場合に事業場外みなし労働時間制の適用を否定しました。
その理由は、時間外労働について把握できる運用となっているのであるから、所定労働時間内でも同様の対応が可能であること、週報の内容を変更し。日報の提出により労働時間の管理が可能であること、等です。
この理由・結論を突き詰めると、現状では事業場外みなし労働時間制の採用は極めて困難と言わざるをえませんが。高等裁判所の判断が示された今となっては、この制度の採用には慎重にならざるを得ません。

【成田法律事務所】
所属弁護士:宮崎 寛之(みやざき ひろゆき)

プロフィール
中央大学法学部法律学科卒業、中央大学法科大学院修了。日弁連裁判官制度改革・地域司法計画推進本部委員。平成29年度千葉県弁護士会常議員。主に、交通事故、労災事故、相続、離婚・不貞問題、債務整理、中小企業法務(労務問題)を中心に活動を行うと共に、千葉県経営者協会労務法制委員会等の講演の講師も務める。

交通事故解決事例

1 事案の概要

本件の交通事故は、信号無視をして交差点に進入した相手方が、左方から青信号で直進していたIさんの運転する車両に衝突して生じたものでした。Iさんは、事故翌日に通院を開始し、その後も通院を継続していたところ、症状固定に至った段階で、相手方の加入する保険会社から示談提案がされたため、その金額が妥当かどうかについて相談したいとのことで当事務所に来所されました。
Iさんは、本件事故日の前年から治療開始の約1ヶ月後まで育休を取得しており、仕事に復帰されてからは勤務を続けながら通院を継続していました。上記示談提案では、このことを踏まえ、休業損害について、育休取得期間中は家事従事者として算定され、仕事に復帰されてから症状固定までの期間は給与所得者としての収入に基づいて算定されていました。

2 兼業者の場合の休業損害について

家事に従事しつつパートタイマーや共稼ぎなどによって収入を得ている兼業者の場合、休業損害算定の基礎となる収入について、赤い本の基準は「現実の収入金額と女性労働者の平均賃金額のいずれか高い方を基礎として算出する。」としており、青本は、「実収入部分を女性平均賃金額に算入せず、平均賃金額を基礎収入とする。金銭収入が平均賃金額以上のときは、実収入額によって給与所得者あるいは個人事業者等の損害額を算定する。」としています。
そのため、一般的に休業損害の算定にあたり、家事従事者に現金収入が若干あったとしても、現金収入が女性平均賃金額を上回らない限り、女性平均賃金額を基礎収入額とするものとされています。

3 保険会社との示談交渉

本件の場合、Iさんの給与所得者としての収入は女性平均賃金額を上回らなかったため、仕事に復帰されてから症状固定に至るまでの期間においても家事従事者としての休業損害を請求することで、より高い金額での示談ができそうだと考えられました。その旨をIさんに説明した上で、保険会社に対して請求を行い、示談交渉を進めた結果、当初の提案額から2倍以上の金額の休業損害を獲得することができました。

4 おわりに

家事に従事しつつ収入を得ている兼業者の方で、給与所得者としての収入に基づいて休業損害が算定されている場合、収入額次第ではありますが、家事従事者としての休業損害を請求することで、保険会社からの示談提案額よりも高い金額を獲得できる可能性があります。保険会社からの示談提案額が妥当かどうか疑問がある場合には、増額の可能性について一度弁護士にご相談することをおすすめ致します。

【かしま法律事務所】
所属弁護士:佐々木 英人(ささき ひでと)

プロフィール
山形大学人文学部卒業、中央大学法科大学院法務研究科修了。弁護士登録後はかしま法律事務所に所属し、主に、交通事故、労働事件、相続、離婚・不貞問題、中小企業法務(労務問題)を中心に活動を行う。ご依頼者様にしっかり寄り添い、少しでも早く不安や不満が解消されるよう迅速な活動を心がけている。好きな言葉は「雨垂れ石を穿うがつ」。

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