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2024年4月号: 固定残業代の危うさについて

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固定残業代の危うさについて

1 はじめに

先ごろ、ある企業が新卒者初任給を10万円引き上げて40万円にするというニュースが話題となりました。しかし就職情報サイトなどで内容を調べてみると、固定残業代月80時間分が含まれるとのことで、SNS上でも疑問や懸念の声が散見されました。
今回は、固定残業代制度と長時間労働、固定残業代制度の危うさについて考えてみたいと思います。

2 長時間労働を前提とする固定残業代制度と公序良俗違反

いわゆる固定残業代制度の有効要件として、①所定内賃金部分と割増賃金部分を明瞭に区別できること、②当該固定残業代が割増賃金に相応しい対価性を有していることが挙げられます。しかしこれらを満たしていても、引当時間が長時間労働を前提としたものである場合、そのこと自体が公序良俗に反するとして固定残業代制度全体が無効になるリスクが高まります。
裁判例では、おおむね月100時間分の固定残業代制度を無効としたもの(マーケティングインフォメーションコミュニティ事件)、月80時間台の固定残業代制度を無効としたもの(穂波事件、イクヌーザ事件)などがあります。いずれの裁判例も、当時の36協定で定められる時間外労働時間上限を大幅に超えていたことや、脳心臓疾患における労災認定基準に相当する引当時間であったことなどから、当該固定残業代制度の公序良俗違反を認定しています。

3 固定残業代制度のリスクとあるべき対応策

平成31年に働き方改革関連法が成立し、36協定における時間外労働の上限規制がより厳格になっていることを踏まえると、前記のような過労死ラインレベルともいうべき引当時間を定めた固定残業代制度が公序良俗違反で無効とされるリスクは極めて高いというべきでしょう。通常の36協定により延長できる労働時間の上限規制である「月45時間以内」を、固定残業代制度が有効となる上限の目安とすべしと指摘する専門書も見受けられます。
固定残業代制度が無効と判断されると、固定残業代分も含めた計算で算出された残業代を改めて支払うことになり、会社としてはきわめて大きな経済的打撃を受けることになります。そうでなくても、固定残業代制度自体、使用者に「従業員に○○時間残業させたい」という心理が働いてしまい、結果としてそれ以上の長時間労働を招きやすいという側面もあります。
そうすると、そもそも固定残業代制度を採用せず厳格に時間管理を行って残業代を支給するか、固定残業代制度を採用する場合も引当時間を月45時間以下に抑えることがもっとも望ましい対応であるといえそうです。のみならず、しかるべき人数の従業員を雇い、全員の生産性を上げ、できるだけ定時退社するよう奨励することこそが、これからの企業のあるべき姿なのでしょう。

【柏法律事務所】
所属弁護士:若松 俊樹(わかまつ としき)

プロフィール
東京大学法学部卒業、慶應義塾大学大学院法務研究科修了後、弁護士登録以降東京で6年、茨城県水戸市で6年半強ほど一般民事や企業法務などの分野で執務。現在は柏事務所で、交通事故、労災事故、離婚・不貞問題などを中心に活動を行う。趣味は読書や音楽鑑賞、好きな言葉は「鬼手仏心」、「神は細部に宿る」。

片親の異なる相続人間での遺産分割事件

ご依頼者
Xさん、Yさん
相手方
Vさん、Wさん
被相続人
Aさん
解決方法
交渉
解決までに要した期間
9か月

本件の事実関係

XさんYさんは、Aさんの後夫との子、VさんとWさんはAさんの前夫との子でした。
Xさんは、Aさんの隣の敷地に居住しておりましたが、VさんやWさんと話したことは全くなく、どこに住んでいるのか、どのような人なのかもわかりませんでした。
Aさんが亡くなり、VさんとWさんという相続人の存在が判明したものの、住所等がわからず、また、どのように接触したらよいのかもわからなかったため、当事務所に相談に来られました。

解決までの流れ

Aさんの遺産は、預金と貸金庫内の現金、自宅でした。遺産の調査やVさん、Wさんの所在調査は難なく進みました。
しかし、VさんやWさんの人となりが全くわかりませんでしたので、どのようにして接触するか、非常に悩みました。
このような場合、相続放棄を求める書面を送付する弁護士をよく見かけます。介護等を行ってきた依頼者の要望が強いことは重々理解できるのですが、たいていの場合、相手方の不信感を買い、弁護士に相談されたり、法的手続きに移行し、解決が長期化したりします。私もこのような書類を受領した側の相談を受けることがよくあります。この場合、相手方が遺産を隠匿しているのではないかといらぬ不安を持たれることもよくあり、解決が非常に難航します。
XさんやYさんと相談し、このようなリスクを踏まえつつ、経済的な利益を最大化すべく動くか、VさんやWさんの感情を逆なでしないような提案にするか、打合せを重ねました。その結果、相続人全員が公平な遺産分割となるような提案を行うこととなりました。VさんとWさんには、遺産の一覧や裏付け資料を全て送り、法定相続分に則って分割を行いたいこと、預金の解約等の手続きは弁護士が行うので、遺産分割協議書に署名捺印した後は、弁護士からお金を支払うことを説明した書面を同封しました。
しばらくして、VさんとWさんからそれぞれ電話があり、電話にてあらためて説明を行ったところ、当方の提案を快諾していただきました。VさんやWさんは、弁護士費用や税理士費用がかからないかといったことも心配されていましたが、そのような費用はかからないことも丁寧に説明し、納得いただけました。
本件では、戸籍の誤記の訂正や貸金の解約等時間のかかる手続きもありましたが、当事者全員が気持ちよく解決をすることができました。その後、VさんとWさんから、Aさんのお墓の所在を尋ねられ、VさんとWさんでお墓参りにも行っていただけたようでした。

【千葉法律事務所】
所属弁護士:今井 浩統(いまい ひろのり)

プロフィール
東北大学法学部卒業、早稲田大学法務研究科修了。弁護士登録後は主に、交通事故、労災事故、債務整理、過払い金回収、相続、離婚・不貞問題、中小企業法務(労務問題)を中心に、多くの方の法律トラブルをしっかり手助けできるよう活動を行う。趣味はソフトテニス、ゴルフ、アコースティックギター、ドライブ、好きな言葉は「どんなことでも楽しまなくては損」。

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