2026年2月号: 事業場外みなし労働時間制について
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事業場外みなし労働時間制について
事業場外みなし労働時間制とは何ですか
A 事業場外みなし労働時間制は、労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事し、かつ、労働時間を算定し難い場合に、一定の時間を労働したものとみなすことができる制度です(労働基準法第38条の2)。本来、使用者には労働者の労働時間を算定する義務がありますが、事業場外みなし労働時間制が適用されると、この義務が免除され、実労働時間にかかわらず一定の労働時間を労働したものとみなすことができるようになります。この制度を適用することで、使用者は労働時間算定の負担を減らすことができます。
どのような場合に「労働時間を算定し難い」との要件が否定されますか
A 昭和63年の行政通達において
①何人かのグループで事業場外労働に従事する場合で、そのメンバーの中に労働時間の管理をする者がいる場合②事業場外で業務に従事するが、無線やポケットベル等によって随時使用者の指示を受けながら労働している場合③事業場において、訪問先、帰社時刻等当日の業務の具体的指示を受けたのち、事業場外で指示どおりに業務に従事し、その後事業場にもどる場合など、事業場外で業務に従事する場合であっても、使用者の具体的な指揮監督が及んでいる場合については、労働時間の算定が可能とされています。②は、現代では携帯電話に置き換えて理解することができます。
阪急トラベルサポート事件(最高裁平成26年1月24日判決)では、海外旅行の添乗員の業務について、旅行日程が定められ業務の内容があらかじめ具体的に確定されており添乗員の裁量が少ないこと、パンフレットや日程表などで目的地や観光の内容・手順が示されていること、添乗員のマニュアルにより具体的な業務が示されていること、携帯電話を所持して常時電源を入れておき旅行日程の変更が必要な場合には会社に報告して指示を受ける必要があること、添乗日報によって会社へ業務状況の詳細かつ正確な報告が求められていること等の事情が指摘され、「労働時間を算定し難い」との要件が否定されました。
使用者が携帯電話を貸与している場合、「労働時間を算定し難い」との要件は否定されますか
A 現代では携帯電話を持ち歩くのが通常のところ、事業場外みなし労働時間制の適用の判断において、使用者が貸与する携帯電話の存在がよく問題となります。
協同組合グローブ事件(最高裁令和6年4月16日判決)では、使用者から従業員に対して携帯電話を貸与していましたが、携帯電話による随時の指示報告の事実はなかったとの認定がされ、貸与携帯電話の存在は労働時間を算定可能とする要素として取り上げられませんでした。
先述の通り、阪急トラベルサポート事件では、携帯電話を所持して常時電源を入れておき状況に応じて会社に報告して指示を受ける必要があることが、労働時間を算定可能とする要素として取り上げられています。
重要なことは、携帯電話によって随時の使用者の指示がされているか否かの点であるといえます。

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【市川法律事務所】
所属弁護士:村田 羊成(むらた よしなり)- プロフィール
- 中央大学法学部卒業、中央大学法科大学院修了。弁護士登録後は主に、交通事故、労災事故、相続、離婚・不貞問題、中小企業法務(労務問題)を中心に活動を行い、ご依頼者様の人生やビジネスに立ちはだかる困難を取り除き、解決するために奔走している。好きな言葉は「学ぶとはいかに自らが知らざるかを知ること」。
交通事故解決事例
Aさんは、自転車に乗って交差点を横断しようとしたところ、対面から右折してきた自動車と接触し、転倒してしまいました。Aさんは、本件事故により、腰椎捻挫・右下腿挫傷の傷害を負い、約6か月間治療を継続しました。しかし、Aさんの右足には、痛みや痺れが残ってしまいました。
Aさんは、加入していた自動車保険に弁護士費用特約が付帯していたこともあり、弁護士に依頼し、後遺障害の申請手続を進めてもらいました。しかしながら、自賠責保険の認定手続では、被害者請求・異議申立てのいずれにおいても、Aさんの右足の痛み・痺れは後遺障害に認定されませんでした。
そこで、Aさんから依頼を受けていた弁護士は、自賠責保険・共済紛争処理機構に対し、紛争処理申請をし、再度、右足の痛み・痺れが後遺障害に該当するかの判断をしてもらうことにしました。その結果、Aさんの右足の痛み・痺れは、後遺障害等級第14級9号に該当すると判断されました。
その後、弁護士は、任意保険会社と交渉をし、自賠責保険金を含め、Aさんは、約350万円の賠償金を獲得することができました。
1 後遺障害とは?
後遺障害とは、症状固定(治療を継続してもこれ以上症状の改善が見込めない状態)後に残存した症状のことをいいます。もっとも、交通事故の損害実務においては、仮に後遺障害があったとしても、後遺障害として認定をされなければ逸失利益や後遺障害慰謝料を請求することはできません。
2 後遺障害の認定手続について
後遺障害の認定手続には、①事前認定(相手方加入の任意保険会社が認定を行うもの)、②被害者請求(被害者が、相手方加入の自賠責保険に保険金請求を行うもの)があります。いずれについても、認定結果に納得がいかない場合には、異議申立てという不服申立ての手続を行うことができます。
そして、異議申立ての結果にも納得がいかない場合には、訴訟を提起した上で裁判所に認定をしてもらうか、自賠責保険・共済紛争処理機構に対し、紛争処理申請を行うなどといった方法があります。
3 自賠責保険・共済紛争処理機構とは?
自賠責保険・共済紛争処理機構とは、自賠責保険や共済からの支払いに関する紛争の公正かつ適確な解決による被害者の保護を図るための事業を行う一般財団法人です。
弁護士、医師、学識経験者などの専門家である紛争処理委員が、中立的な立場から自賠責保険・共済の支払い内容が適切かどうかを紛争処理委員会にて審査し、結果を調停文書として通知します。
自賠責保険会社・共済は調停結果に従う義務がありますので、自賠責保険・共済紛争処理機構により後遺障害が認定されれば、自賠責保険会社・共済は逸失利益や後遺障害慰謝料を支払わなければなりません。
4 おわりに
実際には後遺障害が残っているにもかかわらず、後遺障害として認定されるかどうかで、賠償金の額大きく変わってしまします。
保険会社の後遺障害認定の結果について納得がいかない場合には、まずは弁護士にご相談いただければと思います。

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【船橋法律事務所】
所属弁護士:西池 峻矢(にしいけ しゅんや)- プロフィール
- 早稲田大学法学部卒業、早稲田大学大学院法務研究科修了。弁護士登録以降、「自身が勉強した法律を使って、法的な紛争で苦しんでいる人々を助けてあげたい」という気持ちを胸に、交通事故や一般民事、家事事件などの分野で活動を行う。趣味は野球やラグビーなどのスポーツ観戦、好きな言葉は「意志あるところに道は開ける」。


